製品
トニー・マシューズ博士
Oxford Instruments NanoScience 計測・応用技術部門マネージャー
グスタフ・テレバーグ博士
Oxford Instruments NanoScience シニアテクニカルセールスエンジニア
前回のブログでは、ProteoxS 無冷媒希釈冷凍機のではパルス管冷凍機の2次ステージ(PT2)の温度制御と希釈冷凍機の温度管理が分離された設計であることを解説しました。この設計により、実験物理学者と量子エンジニア双方にとって、多くの実用的な利点がもたらされます。
この設計により、ユーザーは冷凍機の性能を損なうことなく4Kに大きな発熱体を設置することが可能になり、実験の柔軟性が向上します。これは実験要求が急速に変化する研究環境において特に価値があります。
さらに、パルス管冷凍機の2次ステージ(PT2)に接続されたプレートが4Kよりも高温に置かれた場合でも、Proteoxシステムは希釈冷凍機はミリケルビンを保ちながら効果的に発熱を処理します。これは熱的制約が設計の自由度をしばしば制限していた従来のシステムとは大きく異なるところです。
PT2ステージはしばしば「4 K」ステージと呼ばれますが、無冷媒の希釈冷凍機においては、4Kの固定温度によって動作するというわけではありません。4Kプレートの温度は以下の組み合わせによって設定されます:
歴史的に、4.2 Kは液体ヘリウムを用いた冷媒式システムにおいて自然な基準点でした。しかし、現代の無冷媒システムでは、この温度はもはや厳格な制約とはなりません。
4Kの熱負荷が大きいアプリケーション:例えば、窓を通して大量の放射熱が入る光学実験や、「4 K」ステージで動作するクライオCMOSデバイスで電力を放散する実験などは、PT2の特に大きい冷却能力の恩恵を受けられます。こうしたシナリオでは、PT2が正確に4Kで動作する温度よりも、効率的に冷却できる能力の方が重要です。
もう 1 つの魅力的なユースケースは、より高い動作温度向けに特別に設計された低磁場マグネットの統合です。これは、当社が自社内で磁石の設計・組立・統合に関する専門技術を有しているからこそ実現可能なものです。例えば、マグネットの動作温度を 4 K から 6 K に上げると、利用可能な冷却能力が約 2 W から約 8 W と約6倍に増加します。これにより、追加のパルス管冷凍機 (PTR) を必要としない、より費用対効果の高い冷却ソリューションが可能になります。これを4Kプレートの温度を保つためにPTR の個数を増やしたり、大きい冷却能力のPTRを使用すると、システムの複雑さとコストが大幅に増加します。
4Kステージにおける熱負荷の効率的な処理には、慎重な熱工学設計が求められます。大半のシステムでは室温のポンプを用いて3Heを循環させるため、熱交換器の性能が極めて重要です。クライオスタットに戻るガスは可能な限りPT2温度に近い状態で予冷する必要があります。これは通常以下の方法で達成されます:
適切に設計されていれば、これらの機構はPT2ステージが4Kを超えた場合でも効果的に動作します。
向流式の熱交換器の後に続くのが、ダイリューションラインの最初のインピーダンスです。冷媒式システムの場合は、これにより戻り流が1Kポット経由で3Heを液化させるのに十分な高圧を保つことが保証されます。一方無冷媒システムでは、このインピーダンスは絞り弁として機能し、ジュール・トムソン効果を利用して蒸留器での最終凝縮前に3He流を冷却します。
ミリケルビン段階での効果的な循環と冷却を維持するため、循環システムは入口圧力約1 Pa、排気圧力最大200 kPaの条件下で、約2 mmols⁻¹の3He流量をサポートすることが必要です。
これらの設計原則が満たされると、希釈冷凍機はPT2ステージの正確な温度に依存しなくなります。実際、パルス管冷凍機の冷却能力は温度上昇に伴い増加するため、大幅に高い熱負荷に対応することが可能となります。
以下の最近の試験において、Proteoxシステムは4Kステージで10W以上の熱を消費しながら20mKで25μWの冷却を維持し、PT2プレートは6.5K以上で動作しました。これはミリケルビン性能を損なうことなく、十分な熱的余裕があることを実証しています。
注記:PT2の温度が上昇すると、蒸留器にかかる総熱負荷(システム支持構造体を通じた熱流入および戻り3Heからの熱負荷)が増加します。しかし、3He循環を駆動するために使用される蒸留器ヒーターへの電気ヒーターの出力を下げるだけで、これを相殺することが可能です。
図1:上の画像は、パルス管冷凍機と希釈冷凍機の「4 K」ステージの温度を示しており、冷凍機の4Kプレート上のヒーターに通電した状態です。この試験は、希釈冷凍機が混合室ステージで20mKにおいて25μWの冷却能力を供給し続ける間に行われました。
Proteoxのプラットフォームは、高いPT2温度と4Kにおける高熱負荷に対応しながらも、堅牢なミリケルビン性能を維持する能力を有しており、その冷却効率の高さを証明しています。この柔軟性は、複雑な実験装置の統合を簡素化するだけでなく、量子システムの費用対効果の高いスケールアップを可能にします。
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