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NanoScience | Blog

フェルミ研究所のQUIETおよびLOUDにおける量子研究の探索

フェルミ国立加速器研究所 (Fermilab) は、高エネルギー素粒子物理学を専門とする米国エネルギー省の国立研究所です。フェルミ国立加速器研究所の新しい量子センサー・コンピューティング研究センターには、さまざまな放射線環境における量子チップの性能を研究するために作られた実験セットの一部として、当社のProteoxシステムが導入されています。

ここで、Dan Baxter (フェルミ国立加速器研究所非常勤助教授/准科学者) に、地下のQUIETラボと地上のLOUDラボを含む、同じ機器を設置した新しい施設についてお話を伺いました。Dan博士はまた、ダークマター研究に使用可能な、新しい高感度粒子検出器の開発という、博士のチームの研究が将来的に応用される可能性についても言及しています。

QUIETとLOUDとは、どのような施設でしょうか?

QUIETとLOUDは、フェルミ研究所の量子科学センターの一部である2つの施設です。量子科学センターは、米国に5つあるエネルギー省の国家量子イニシアティブセンターの1つで、オークリッジ国立研究所が主催し、フェルミ研究所が設立パートナーの1つとなっています。これらの施設は、超伝導量子ビットの性能に対する高エネルギー粒子線照射の影響を研究しています。主な目的は、量子コンピューティングの実現のために、量子システムに対する放射線の影響をモデル化し、潜在的な影響を低減することです。

QUIETとLOUDは、どのように違うのでしょうか?

QUIETとLOUDは、場所以外は同じです。LOUDは地表にあり、QUIETは地下225m(約100mの岩盤)にあります。この環境設定により、異なる放射線環境における量子チップの性能を調査することができます。地下施設では宇宙線ミューオンが1/200に減少するためです。この要因を除外することで、量子ビットの性能に影響を与える要因をより効果的に研究することができるのです。

なぜ放射線の量子系への影響を研究することが重要なのでしょうか?

量子コンピュータは量子状態で情報を保存しており、その量子状態は環境から十分に隔離されている必要があります。ノイズや振動、放射線がシステムに作用すると、情報が失われる可能性があるのです。この5年間で、量子系にエネルギーを与えるさまざまなメカニズムが、量子コンピューター・デバイスの情報損失 (誤り) を引き起こす可能性があることが明らかになってきました。これらの効果を詳細に研究することで、放射線がどのように情報損失を引き起こすかについてのモデルを開発し放射線の影響を受けにくい、より安定した量子デバイスを設計したいと考えています。

希釈冷凍機は、どのような役割を担っているののでしょうか?

希釈冷凍機は、超伝導量子ビットが機能するために必要な極低温を作り出すことができるので、我々の研究にとって極めて重要です。熱ノイズを最小限に抑え、可能な限り絶対零度に近づける必要があるのです。この低温環境は、量子チップそのものだけでなく、量子システムに干渉する可能性のある黒体放射を低減するために、周囲の表面に対しても不可欠となっています。量子ビットの超伝導構造は、実際に超伝導の挙動を示す温度である必要があり、システム全体を低温にできればできるほど、量子ビットを熱ノイズやその他の環境要因からよりよく隔離することができます。

地下で機器を操作する上での課題はあるのでしょうか?

地下での設備運用はそれほど複雑ではありませんが、より組織的で計画的な作業が必要になります。例えば、窒素トラップを充填したり、必要な機器を地下に持ち込んだりするには、綿密な計画が必要です。地上のラボに忘れ物をしたことに気づき、わざわざ戻ってこなければならない状況に苛立つこともあります。しかし、放射線環境が緩和されるメリットは、こうした些細な不便を補って余りあるほどです。地下施設は、地上のオフィスからわずか10分ほどで到着するため、実に便利な場所となっています。アクセスは主に貨物用エレベーターで、エレベーターに入りきらない大型機器用の二次的なオープンシャフトも備えています。

    フェルミ研究所のチームが新施設を公開

    Dan Baxter with Travis Humble, Director of QSC at Oak Ridge National Lab. Photography by Dan Svoboda

    QUIETとLOUDプロジェクトの現在の状況を教えてください

    LOUDは1年以上前から稼働しており、そこで量子ビット・デバイスの性能を研究しています。QUIETは現在稼働したばかりで、今年の秋には最初のデバイスを投入したいと考えています。現在は、実際の量子ビット・デバイスを設置する前に、基本的なシステムの特性評価を行い、すべてが望ましいレベルで動作していることを確認しています。これには、RFシステムの診断、適切な増幅と減衰の設定などが含まれます。システムが最適化された後、私たちは一連の実験を行う予定です。そのうちのいくつかは、地表と地下の冷凍機を素早く比較するものですが、他のものは、異なるプロセスが量子ビットの性能に及ぼす長期的な影響を理解するための長期的な研究となります。

    この研究とダークマターの検出には関係があるのでしょうか?

    ええ、実は興味深いつながりがあるのです。量子ビットの環境に対する感度が極めて高いことから、現在の検出器よりも低いエネルギーで、量子ビットを粒子センサーとして使える可能性が出てきました。これによって、ダークマターの新しいモデルを探ることができるかもしれません。我々が量子コンピューティングのために解決しようとしている問題は、新しいダークマター検出器を開発するための問題と非常に近いものであり、基礎科学の観点からこの研究を特にエキサイティングなものにしているのです。

    我々が量子コンピューティング実現のために量子ビットへの放射線の影響を軽減する方法を研究しているのと同様に、この知識を利用すれば、特定のタイプの相互作用に対して量子ビットの検出感度を向上させることができるかもしれません。これは、特に現在の技術では検出が困難な低エネルギー相互作用について、より高性能な検出器の開発につながる可能性があるのです。最近、フェルミ研究所はRadiation Impact on Superconducting Qubits (RISQ)と呼ばれる大規模な国際ワークショップを開催し、ダークマターと量子コンピューティングの両分野から専門家を集め、このような応用の可能性について議論しました。

    この研究の将来的なアプリケーションにはどのようなものが考えられますか?

    我々の研究には、主に2つのアプリケーションの可能性が考えられます。一つ目は、量子ビットへの放射線の影響を緩和することで、より安定で堅牢な量子コンピューターシステムを実現することです。これにより、将来の量子コンピューターの性能と信頼性が向上する可能性があります。二つ目は、ダークマター研究に使用できる新しい高感度粒子検出器の開発につながる可能性があることで、これまで調査できなかったエネルギー領域の探索が可能になる可能性を秘めていることです。

    この研究の興味深い点は、現在のところ、量子コンピューティングとダークマター検出アプリケーションの両方において、我々が解決すべき問題が同じであるということです。我々はまだ、どちらか一方のアプリケーションに研究を特化させるという段階には至っていなと考えています。このように2つの異なる分野での目標が一致することで、我々の研究は非常に重要なものとなり、量子コンピューターと基礎物理学の研究双方にとって画期的なものとなる可能性があると考えています。

    装置メーカーとして、量子ビットと量子センサーの開発という重なり合う2つの方向性は実に興味深いものです。当社のProteox希釈冷凍機は、量子テクノロジーとダークマター探索の両方でその強みを発揮しています。

    Proteoxが地下実験室でのダークマター検出実験に理想的である理由のひとつは、当社のプラットフォーム非依存のウェブベース・ソフトウェアoi.DECSを使って簡単に遠隔操作でき、oi.DECSライブ・ダッシュボードを使ってシステムのパフォーマンスをリモートで監視できることです。

    Proteoxシリーズの詳細についてはこちらをご覧ください。

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    daniel-baxter

    Professor Daniel Baxter

    Adjunct Assistant Professor / Associate Scientist, Fermi National Accelerator Laboratory

    「希釈冷凍機は、超伝導量子ビットが機能するのに必要な極低温を作り出すことができるので、我々の研究にとって極めて重要です」。

    「量子ビットの環境に対する極めて高い感度は、現在の検出器よりも低いエネルギーでの粒子センサーとしての可能性を開くものです。これによって、ダークマターの新しいモデルを探ることができるかもしれません」。

    「我々の研究は、量子ビットへの放射線の影響を軽減させることで、より安定した堅牢な量子コンピューティングシステムにつながる可能性があります。これは、将来の量子コンピューターの性能と信頼性の向上に役立つと考えられます」。