製品
2020年、データセンターにおける量子コンピューティングがほぼ未検証のコンセプトであった頃、オックスフォード・インストゥルメンツは大胆な一歩を踏み出しました。UKRI(UK Research and Innovation)のInnovate UKプログラムの一環として、当社は当社の ProteoxLX 希釈冷凍機を使用し、Rigetti社の32量子ビットAspen™級量子コンピュータを当社のTubney Woods施設において稼働させました。そして、このシステムは量子クラウド・サービス(QCS™)のクラウド・コンピューティング・プラットフォームを通じて、英国Rigetti のパートナーにクラウド経由で提供されました。商業的かつネットワーク接続された環境で量子コンピュータを稼動させたこの経験は、当社にとって大変貴重な教訓となり、試行錯誤を重ねたデータセンター・ソリューションを開発する原動力となりました。
他の企業が量子データセンターの統合を検討し始めたばかりであるのに対し、当社はすでにその取り組みを改善し、革新的でスケーラブルなソリューションを構築するためにパートナーと緊密に連携してきました。早くからスタートしたことによ り、当社はリードを得ただけでなく、量子コンピューティング・インフラストラクチャに対する考え方を一変さ せることができたのです。
Oxford Quantum Circuits (OQC) というお客様をサポートすることで、当社はこの1年半の間に世界中で稼働している3つのデータセンターに希釈冷凍機を設置し、このことを大変誇りに思っています。その中には、2022年9月にCentersquare(旧Cyxtera)Digital Exchangeのコロケーション・データセンターに世界初の量子コンピューターを統合したコロケーション・データセンターの例や、2023年5月に日本のエクイニクス・データセンターに導入した例も含まれています。
Rigetti のシステムをホスティングしたことは、ラボとデータセンターの違いを学ぶ上で非常に有益な経験でした。当社の施設はコロケーション・スペースには相当しませんが、高い可用性や 信頼性、フォールトトレランスを実現するために何が必要かを直接学ぶことができました。データセンターは冗長性によって信頼性の高いインフラを実現してきましたが、当社はこれをシステムに応用し、平均故障間隔 (MTBF) や平均サービス時間 (MTTS) といった重要な要素を向上させることができました。実質的に、当社は希釈冷凍機をデータセンター対応にすることに成功しました。
Rigetti 社とパートナーである University of Edinburgh 量子 ソフトウェア研究所、Phasecraft 社、Standard Chartered 銀行との Innovate UK プロジェクトが最終段階にある間に、当社は OQC を使用した実データセンターでの量子プロセッシング・ユニット (QPU) の展開に知識を適用することができました。
データセンターには量子システム特有の問題があります。防振は極めて重要な要素であり、当社は一から取り組んできました。当社独自のフレームと防振 (AV) ベローズは、高価な防振システムを導入することなく振動を取り除くように設計され、量子ビットが安定した状態を確保し、性能を低下させコヒーレンス時間を短くさせる外部ノイズの侵入を最小限に抑えることができます。
データセンターの運用において、2台、3台、4台のシステムをコンパクトな設置面積に収めるにはどうすればよいでしょうか?データセンターでは、サーバー、ネットワーキング・インフラ、冷却システム、配電ユニットなど、膨大な量のコンピューティング機器を収容する必要がありますが、床面積は非常に限られています。当社は OQC と協力して、コンパクトに設置するための必要条件を把握し、データセンターと連携しながら、実用的なものからトレーニングに関連するものまで、さまざまなソリューションに取り組んできました。また、データセンターが量子コンピューティング・システムを可能な限り容易に追加できるようにするためのソリューションにも取り組んでおり、これにはデータセンターでは通常見られない設備を削減または取り外しするための措置も含まれます。
Proteox 希釈冷凍機のデータセンターバージョンを構築しました。ラックと補助装置を最適化し、フレームの設置面積を縮小することで、床面積を小さくし、導入コストを削減しました。
当社の革新的な Proteox の設計には、独自のサイドローディング式セカンダリーインサート (SI) が採用され、これを取り外して Proteox システム間で交換することができます。つまり、配線はオフラインで別の場所で行うことができます。これにより、より高い量子ビット数と高い忠実度を持つ QPU が開発されるにつれて、高い信頼性を保ちながら、事前にテストされたコンピューティング能力のモジュールを迅速に展開することができ、投資に対する将来的な確証を得ることができます。
データセンター用の量子コンピュータの場合、遠隔地のコロケーション・データセンターに設置する前に、現地でテストを行うことができます。配線は、お客様のご要望に応じて、mK、4K、室温など様々な温度で十分にテストすることができ、非常に高い信頼性とシステム性能を確保することができます。
万が一問題が発生した場合でも、ユーザーは事前に検証済みの新しいインサートと交換することができ、最小限の中断でオペレーションを継続することができます。
取り外し可能なセカンダリーインサートは、スケールアップの際にも重要な役割を果たします。将来的に配線数を増やしたい場合、ユーザーは量子ハードウェア・プラットフォーム全体を交換したくないでしょう。当社の希釈冷凍機は、配線数のニーズが変化しても、セカンダリーインサートの QPU と配線スタックを交換することが可能です。このような将来性のある機能により、寿命と価値を最大化することができるのです。
オックスフォード・インストゥルメンツの革新的な技術だけでなく、高度なトレーニングを受けたサービスエンジニアのグローバルな展開により、システムは 24 時間体制でサポートされ、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。オックスフォード・インストゥルメンツのサービスエンジニアチームは、データセンターの量子コンピューティング・システムをサービスするための特別なトレーニングを受けており、極めて重要なインフラの整備を安心してお任せいただけます。
日本のサービスエンジニアチームは、国内のヘルスケアシステムの保守サービスのみから、データセンター内の希釈冷凍機の保守・モニターも行うようにトレーニングを受け、お客様のシステムが最高のアップタイムを維持できるようにしています。また、oi. DECS を使用して、お客様ご自身でシステムをリモートでモニターすることも可能です。oi.DECS は、ウェブベースでプラットフォームに依存しないソフトウェアで、ライブダッシュボード機能を備えています。
従来のデータセンターにおける量子コンピュータの存在価値は、今後数年で着実に高まると予想されています。量子デバイスは実用的なデータ処理に対応し始めています。量子コンピューティングの需要が高まり、企業が量子インフラへの投資を行うようになれば、データセンターへの導入が増えることが予想されます。
量子コンピュータが実験レベルのラボシステムから、企業が活用できるツールへと進化するにつれ、データセンターは量子コンピュータにとってごく当たり前の設置場所になります。コロケーション・データセンターには確立されたITフレームワークと信頼性の高いインフラがあるため、企業は量子コンピュータ施設の建設に多額の投資をする必要がなくなります。また、データ転送や管理に伴うリスクも大幅に軽減することが可能になります。
量子コンピューティング特有のニーズに合わせて施設や希釈冷凍機などのハードウェアを最適化することには依然として課題が残されていますが、OQC のような企業と提携することで、こうした課題を着実に解決していることを誇りに感じています。また、2022年以降、データセンタ環境において、量子システムを従来のサーバと共に設置する流れがサポートされ、量子システムがますます一般的なものとなっていることを誇りに思っています。
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