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中国科学院のQingyou Lu教授率いる研究チームは、世界で初めて無冷媒超伝導マグネットに適した走査型トンネル顕微鏡測定用プローブの開発に成功しました。関連する研究成果は、Ultramicroscopy誌に掲載されました。
走査型プローブ顕微鏡の代表格である走査型トンネル顕微鏡(STM)は、基礎科学研究分野において重要かつユニークな試験法です。実空間での原子分解能と運動量空間での高エネルギー分解能を持ち、様々な試験条件(低温、強磁場、光場、溶液など)に拡張することができますが、STMは振動などの外乱に非常に敏感な測定です。そのため、既存の低温・強磁場STM装置は振動や音の干渉が弱い湿式超伝導マグネットを用いたものがほとんどでした。
Fig. 1. プローブ型STMの写真とSTMヘッドの断面図(主要部位を示す)。
しかしながら近年、液体ヘリウムの調達価格の上昇に伴い、湿式低温実験装置の運用コストの増加や長期的な運用が液体ヘリウムの供給に大きく依存するなどのデメリットが徐々に顕著になってきました。そのため物理実験で利用するマグネットは液体ヘリウムに依存する湿式から、クローズドサイクルの無冷媒式へと徐々に移行しているのが現状です。無冷媒マグネットは、既に量子輸送測定、NMR、磁場中の試料成長など、多くの分野で応用されています。しかし、STMを無冷媒マグネット中にて運用することは、無冷媒超電導マグネットの動作時に発生する超強力な振動と音響ノイズのために実施することが困難でした。
Qingyou Lu氏の研究は、ナノサイエンスの上海アプリケーションラボが提供する8T無冷媒式超電導マグネットTeslatronPTプラットフォームに基づいています。マグネットに装備された温度可変インサート(VTI)は1.5~300Kの温度制御が可能で、試料室の直径は50mmです。開発したプラグインSTMシステムは、高耐振性STMミラーボディ、衝撃吸収・断熱プローブ、高性能コントローラを備えています。試験の結果、このSTMは、TeslatronPTプラットフォームの8T磁場下、最低温度1.6KでグラファイトやNbSe2超伝導体などの試料の高品質な原子分解能画像を提供できることが確認されました。本研究は8Tのドライ超電導マグネットをベースにしていますが、技術的にはより高い磁場を持つ無冷媒超電導マグネットにも十分に適用可能です。
Fig. 2 (a) 及び Fig. 2 (b) 8T無冷媒超電導マグネットシステムの写真と断面図。
Fig. 2 (c) VTI熱交換器の室温からベース温度までの典型的なクールダウンカーブを示しています。300Kと10Kでの長期間の典型的な温度安定性が挿入図で示されています。
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